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まんが日本昔ばなし

お浪草

昭和62年9月12日放映

演出・原動画・セルワーク・美術(背景):三善和彦

文芸:沖島勲

あらすじ

 昔々、岐阜県柿野、西洞のミツボリ山には主が住むと云われていた。その麓の村に、お浪という大層美しい娘がいた。お浪は源三(げんざ)という村の若者を好いており、二人の仲は誰もがうらやむ程だった。ある者は二人を「あんまり仲良うしとるとミツボリ山の主がやきもち焼くぞ」などとからかったりした。二人は夫婦になる約束も交わしていた。

 

 ある日、泊まり込みの山仕事が続き、帰って来た源三が久しぶりにお浪に会うと、お浪の顔はばかに青ざめていた。心配する源三に、お浪は突然暫くの間会わないで欲しいと言う。源三はそれ以来お浪に会えなかったが、お浪の両親は毎夜源三がお浪の部屋に来ていると思っていた。ある晩とうとう源三はたまりかねてお浪のところへ行くと、障子に不気味な影が映った。源三は仰天してお浪の名を呼ぶと、突然障子を破って現れたのは巨大な竜だった。源左はあわてて逃げ帰ると、布団を被って震えていた。翌朝になってお浪がいないと大騒ぎになり、源三を始め村人総出で捜し回った。道端に落ちているお浪の手ぬぐいや櫛を辿っていくと、いつしかミツボリ山に入り、大きな穴の脇にお浪の草履があるのが見付かった。源三は必死にお浪の名を呼ぶが、穴の中からは水の流れる音に混じって、かすかに女のすすり泣く声が聞こえるばかりだった。

 

 三十五日後、お浪は源三の夢枕に現れ、源三との思い出を胸に主の元で暮らすとだけ告げて消えてしまう。それから暫くミツボリ山の辺りをフヌケの様に歩き回る源三の姿が見られたが、それもいつしか消えてしまった。やがてミツボリ山から中又洞にかけて、お浪の辿った道沿いに白い花が咲くようになり、誰言うとなく「お浪草」と呼ばれるようになった。

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原作

 これは現在の岐阜県山県郡に伝わる話だということ以外は、詳しいことが分かりません。私が頂いた原作の写しには、一川鉄夫さんという方の名が書かれていますので、この方が採話されたものだと思われます。

 

 実は、過去担当した中で最も長い原作でした。会話も多く、通常は原作を膨らませるのが仕事のようなものなのですが、この話だけは整理して削るのが仕事になりました。とは言っても、削ったのは説明が冗長に感じる部分などだけで、全体の印象は原作そのままです。特に、毎晩源三が来ていると思いながら少し妙だと感じているお浪の両親の会話などは、ほぼ原作通りにしています。

 

 昔話の中にはこの話に近い、いわゆる類話が沢山ありますが、それは身近な人が突然行方不明になったりした際に、残された人々が自らを納得させるために作った物語だったからかもしれません。そうした人々の思いが、物語という形になって現代にまで継承され残ってしまったのでしょう。昔話の背後には、そうした過去の人々の言い尽くせない思いが込められているのだと思います。そう考えると、これはただのお話などではないのだと感じられてきます。

解説

 絵は殆ど草木染の和紙を使った貼り絵ですが、「鶴の屋敷」とは違って、ちぎり絵ではありませんし、殆どのカットは止め絵です。動きらしい動きがあるのは唯一、主がお浪の部屋に来ているのを源三が目撃するシーンだけです。

 

 物語も殆どが常田さんのナレーションが中心で、こうしたスタイルの延長上に「名作をテレビで読む~絵本~『快走』」があります。

 

 実はこの話を担当する少し前に、「まんが日本昔ばなし」の演出家の大先輩である三輪孝輝さんから「三善君には、恋愛ものは無理だろうなあ」などと言われ、何糞と思ったものですから、「今度は是非恋愛ものを」とリクエストして担当させて頂きました。そんな動機で勇んで取り掛かったものですから、はたして上手くいったのかどうか、自分では良く分かりません。しかし今見ると、前半の源三とお浪が仲むつまじくしているシーンなどは、どうにも小っ恥ずかしくって見ちゃいられない気持になります。

​ それにしても、若く可憐な美女を演じる時の市原さんのお声は、本当に艶っぽくて可愛くて見事ですね。

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 お浪をさらっていったのはミツボリ山の主ですが、それが竜なのか大蛇なのか、よく分かりません。原作では、最後に源三の夢に出てきたお浪が「竜のあなの底でくらします」と言っているので竜と書きましたが、作品中では竜なのか蛇なのか特定していません。あとに青臭い匂いが残ったところなどは、蛇のイメージが近いような気もします。

 ところで原作のコピーの隅に、当時書き込んだ手書きのメモで、「ヘビのような美人」と書かれてありました。お浪をそういうイメージでデザインするということだったのでしょうか。どういう意味で書いたのか、どなたかに言われたのか、あるいは自分で考えたのか、もはやすっかり忘れてしまったので、今となっては謎です。

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​ この作品を制作していた当時、妣田圭子さんの作品に傾倒していました。特に「和紙の草絵」(昭和52年、マコー社)という妣田さんの著書からは、大きな影響を受けました。この本は、今でも手放すことができません。妣田さんの作品は抽象化の一歩手前、ギリギリのところまで削ぎ落とされた先の、色とフォルムの圧倒的な美しさがあります。その造形のスタイルからは、沢山のヒントを頂きました。

 前作の「雷さんのドンチャン騒ぎ」と二作連続して、動く場面が極端に少ない作品を制作しました。でもやっぱりこの「まんが日本昔ばなし」では、アニメーションとしての動きで見せる作品の方が面白いと感じます。そこで次の作品からは、再びちゃんとアニメートする方向に路線を戻しました。

お浪(イメージボード)

イメージボードのお浪(クリックで拡大表示します。)

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